165.
第十四話 劇的な東1局
2人の当たり牌である九萬を引いてしまった左田純子。さあ、その牌をどうする?!
左田手牌
三三伍伍八八②②⑨⑨北中中 九ツモ ドラ八
(何コレ!? キツくない? ドラ跨ぎの九萬…。北単騎の方がずっといいのは百も承知だけど…… こういうのを止めるためのダマでもあったんじゃない?)
左田は長考する。
「……………よし」
打北
フーーー……
《止めた! 偉い》
(コレ。あと2枚の九萬を3人で引き当てるゲームになったってこと?)
《いえ、それもありますが。それよりも……》
(! そうだ! それよりも!)
財前真実は考えていた。
(九萬なー。序盤で捨てとけば良かったのかなー。でも、愚形のソーズとかに期待するより四伍六六七九からのマンズの伸びを期待した方がいい手だと思ったんだよなー。ああ、厄介なことになったわ)
マナミ手牌
四伍六六七九③③④⑤⑤44
(マナミ引いちゃえ! 今! この瞬間! あと1枚の…… ④!)
《そうそう! そう言うことですよ!》
マナミのツモ番だ。ここで強いテンパイをすればマナミは九萬を勝負する。
マナミ9巡目
ツモ④!!
「リーチ!!」
 
175.第六話 クラシックルール カオリはwomanとの別れが近いことを知り、このままではいけないと思った。私もタイトルを獲らないと! と。 これはとてもバカな考えである。タイトルなんてそう簡単に獲れるものではない。生涯に一度でも獲れたものなら大偉業という話なのであるが、何せマナミ、ミサト、ユウという同世代の3人は既にタイトルホルダーだ。カオリがそう思ったのも仕方ない。C3リーグを繰り上げ1位昇級というのも立派な実績なのだが、カオリにはまだその価値はわからない。 カオリは6月から予選が始まる競技麻雀業界史上最も格式の高いタイトル戦『麻雀師団名人戦』に参加することを決めた。ちなみに去年は参加していない。参加は義務ではないし、ルールも30000点持ちだったり飛びなしだったりと普段のものと違った『クラシックルール』を採用しているからまた一から覚えてそれ用の戦略を考えるのが面倒だったのもあった。 しかし、今年の師団名人戦は決勝戦が11月10日なのでギリギリ間に合う。カオリの誕生日は11月11日だ。womanに優勝した所を見てもらうにはこのタイトルを獲るしかない。 クラシックルールに精通しているのはプロ歴の長い成田メグミや杜若アカネだ。彼女たちに教えてもらいながら師団名人戦へ向けてカオリの特訓が始まった。◆◇◆◇ 一方、三尾谷ヒロコと中條ヤチヨは最近麻雀部によく来ていた。「あんた達3年生でしょ。私が言うのもなんだけど毎日遊びに来てていいの?」と心配するのは佐藤ユウだ。ここは佐藤家。当たり前だがユウはだいたいの日はここにいる。「いいのいいの、勉強は学校でちゃんとしてますから」と言うヒロコは大学進学を目指しているはずだが、本当に大丈夫なのだろうか。「私は高校卒業したら鹿島の叔父さんがセット雀荘オープンさせたらしいからそこ
174.第伍話 発熱 4月20日。明日はマナミの誕生日だ。ついにマナミも明日で二十歳。大人とされる年齢である。 その日の夜、マナミは夢を見た。○○○○○〈財前真実さん。ずいぶん強くなりましたね〉「だ、誰?」〈私はラーシャ、あなたに憑いたラシャの付喪神です〉「ラシャ? 麻雀マットのこと?」〈そうです。あなたがお姉さんからもらった麻雀マットを何年も大切に手入れしたので付喪神の私が憑いたんです。私はあなたの勝利をきわめてさりげなくアシストすることに徹していました。 あくまでお手伝いという形で、答えを教えることはせず〉「あっ、たまにビリッとくるのはもしかしてアナタがやってたの?」〈ええ、余計なお世話かとも思いましたが、でも最近は明らかに間違えた選択などはしなくなって来ましたよね。なので、私からのアシストはもう終わりにします。いいですよね。もう大人ですから。神様がいるのは小さい頃だけってのは物語のセオリーですし〉「えっ、いなくなっちゃうってこと?」〈私はいつでもラシャに宿っていますよ。ただ支援しなくなるだけです。見えなくても、聞こえなくても、いつもマナミのそばに――――ピピピピ! ピピピピ!ガシャ! 目覚まし時計が鳴ってそこで目が覚めた。今日は土曜日だがマナミは早番の日なので起きなければならない。 誕生日の日くらいゆっくり休んだら? とカオリは言っていたが早番でさっさと仕事を終わらせて、その後でゆっくりすることにしたのだ。「なんだか、変な夢を見てた気がする……」(断片的にしか思い出せないけど…… 私には付喪神が憑いてて、でももう大人だからいなくなる…
173.第四話 オールグリーン 近頃、メキメキと実力を付けてきたのはカオリだけではなかった。 それはマナミもである。 マナミはもちろんカオリをライバル視しているのだが、普段のカオリはwomanの指導ありで打っている。つまり、知らぬ間にマナミは麻雀の神をライバル視していたのだ。それは強くなって当たり前というもの。「ツモ! 16000オール」 マナミ手牌一九①⑨199南西北白発中 東ツモ「またマナミちゃんの勝ちかー!」「最近特に強くなったんじゃない?」「伊達に雀聖位じゃないってことかー。さすがプロ」「えへへ。ありがとうございます」────その日の夜。 ラーシャとwomanはおしゃべりしていた。〈なんか、最近うちの子強くて。もう、私はなんもしなくてもいいのかもしれません〉《マナミは私と張り合ってますからね。現に雀聖位まで獲ってるし。見事なものですよ》〈それにもうすぐでマナミは二十歳です。もう子供じゃない。神の力でアシストする期間はここまででいいか…… なんて思ってましてね〉《そうですね。それは確かに》〈カオリさんもずいぶん強くなりましたよね。飲み込みも早いし、賢い子です〉ガチャ「ただいまー」〈あっ、マナミが帰って来ました。お喋りはこれくらいにしましょう〉《お帰りなさい、マナミ》「おかーさーん、カオリー」(2人とも居ないか) するとカオリもすぐに帰ってきた。&
172.第三話 持ってないということを読む 今日は大学2年生になってから初めての出勤だ。「カオリちゃーん。進級おめでとう!」「麻雀もいいけど、学業も頑張ってねー」「ありがとうございます、ありがとうございます」《相変わらず大人気ですねカオリは》(ありがたいことだけど、なんでなのかはホントわかんないわ。マナミの方が可愛らしいしキレイだと思うんだけどな)《ファンが多いのはいいことです。素直に受け入れておけばいいんですよ》(まあ、そうね)「カオリさん。さっそくで悪いけど3卓の本走を遅番と交代お願いできるかな。まだ東2の親2回ある原点持ちだから」「はーい! じゃあ、挨拶して入ります」 そう言うとカオリはピシッと背筋を伸ばしてホール全体へ「いらっしゃいませ! おはようございます」と一礼し、マスター(店長)にも「おはようございます!」と挨拶すると3卓へと小走りで近寄った。「おはようございます。本走交代します。お疲れ様でした」と遅番スタッフに挨拶して交代する。「本走入ります。よろしくお願いします」と今度は同卓者と麻雀そのものへ挨拶し一礼する。「よろしくお願いします」「お願いします」「よろしく」 座って早々にカオリはテンパイする。東2局25000持ち南家6巡目カオリ手牌一三三⑥⑦⑧⑧234678 三ツモ ドラ西(タンヤオのみの亜リャンメンかー…… どうしよ。リーチでいいかなあ? 萬子を伸ばす手もあるけど今回は対面が四はポンしてるし、多分対面はホンイツだから萬子待ちは全然いい待ちじゃないわ)《もう1巡だけ様子見してから決めましょう》(タイミングを見計らうってこと? そ
171.第二話 お祝い 春になり、竹田杏奈(たけだあんな)たち3年生も高校を卒業。就職や進学をしていた。 杏奈はバイトしていた喫茶店『喫茶グリーン』にそのまま就職。ユウが講師をする麻雀教室と喫茶店のホール係をやることにした。 倉住祥子(くらずみしょうこ)もそのまま喫茶店のキッチン担当として就職した。意外にもショウコは機械に強く、家ではパソコンを何年も前からいじっているそうで、その知識を借りてユウの麻雀教室のホームページを作成してもらった。ショウコの腕はたいしたものでプロに依頼したかのような立派なホームページが完成した。 浅野間聡子(あさのまさとこ)は大学進学をして教育学部へと進んだ。いずれはサトコも麻雀を人に教える仕事をしたいが、今はまだ教育する立場としては未熟だし、サトコは不器用なのでユウみたいに誰とでも上手くは話せない。 それにまだサトコは勉強がしたかった。学んでいくことが楽しい。なので大学進学だけはしておきたいと思ったのだ。 今日は『卒業組をお祝いしようの会』で麻雀部が喫茶グリーンに集合した。「いらっしゃいーサトコ。これで主役は揃ったわね」「サトコ以外の主役はさっきまで働いてたからね」 お祝いには財前香織(ざいぜんかおり)と財前真実(ざいぜんまなみ)の他に野本夏実(のもとなつみ)や井川美沙都(いがわみさと)、飯田雪(いいだゆき)とその2人の仕事場の店長である小宮山源(こみやまはじめ)が来ていた。「今日はミサトちゃんの後輩の卒業会なんだろ? ここはおれが出すから気にせずなんでも注文してくれ!」「やったー! ありがとうございます店長!」「いやいや、ミサトちゃんのおかげでウチの店も完全に軌道に乗ったし、恩返しが出来て良かったよ」「いや、私のおかげなんて…… 私はただ働いてただけです。みんな店長の手柄ですって」「いーからいーから。おれが感謝してるって言うんだからミサトちゃんのお
170.ここまでのあらすじ 雀聖位戦優勝を果たしたマナミ。麻雀部から3人目のタイトルホルダーが出る。 そして、マナミの実力に注目した前期雀聖位の左田純子は麻雀部に興味を持つ――【登場人物紹介】財前香織ざいぜんかおり通称カオリ主人公。女子大生プロ雀士。所属リーグはC2女流リーグはA所属読書家で書くのも好き。クールな雰囲気とは裏腹に内面は熱く燃える。柔軟な思考を持ち不思議なことにも動じない器の大きな少女。神の力を宿す。日本プロ麻雀師団順位戦C3リーグ繰り上げ1位財前真実ざいぜんまなみ通称マナミ主人公の義理の姉。麻雀部部長。攻撃主体の麻雀をする感覚派。ラーメンが大好き。妹と一緒に女子大生プロ雀士となる。神に見守られている。C2リーグ所属。女流リーグA。第36期新人王戦3位第5期女流Bリーグ優勝第30回雀聖位戦優勝佐藤優さとうゆう通称ユウ兄の影響で麻雀にハマったお兄ちゃんっ子。誘導するような罠作りに長けている。麻雀教室の講師になることが夢。いま夢に向けて着々と前進している。第1回UUCコーヒー杯優勝第30回雀聖位戦準優勝竹田杏奈たけだあんな通称アンテーブルゲーム研究部に所属している香織の学校の後輩。佐藤優の相棒で、一緒に麻雀教室をやることを夢見ている。駅前喫茶店『グリーン』でバイト中。佐藤卓さとうすぐる通称スグル佐藤優の兄。『富士2号店』と